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「旅」にまつわるアレコレを30代サラリーマンが綴ります。

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【読書】沢木耕太郎「深夜特急」①/香港・マカオで熱狂の渦へ

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バックパッカーのバイブルともいわれるの紀行文学の傑作、沢木耕太郎「深夜特急」をご紹介いたします。インドのデリーから、イギリスのロンドンまでバスだけで横断するという、聞いただけでワクワクする物語。しかし、今回ご紹介する文庫第1巻ではまだ出発地のデリーまでたどり着きません!

 

 

深夜特急=ミッドナイト・エクスプレスとは?

今回ご紹介するのは沢木耕太郎著「深夜特急」(新潮文庫)です。

 

「深夜特急」は作家・沢木耕太郎による自伝的紀行小説で、前述のとおりバックパッカーのバイブルといわれています。

著者が26歳のときの体験がもとになっており、平たくいえば、主人公である<私>が仕事も辞めて、一握りのお金だけ持って、インドのデリーからイギリスのロンドンまで、ユーラシア大陸を乗合いバスだけ横断するというストーリーです。

1986年に第1・2巻(表記上は第1便、第2便)、1992年に第3巻(同じく第3便)が刊行されました。

現在は新潮文庫から全6巻の文庫本が出版されており、私が手に取ったのもこの文庫本です。

とても有名な本ではありますが、私がこの本を読んだのはつい最近のことです。

以前ご紹介したポール・セルー「鉄道大バザール」を読んだときに、あれ日本にもそんな本があったような……と思ったのがきっかけでした。

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早速本屋で見つけたのですが、手に取ってビックリ!深夜「特急」なのに、乗るのはバスなのでした。

では、深夜特急とは何かというと、巻頭には下記の文が掲げられています。

 

<ミッドナイト・エクスプレスとは、トルコの刑務所に入れられた外国人受刑者たちの隠語である。脱獄することを、ミッドナイト・エクスプレスに乗る、と言ったのだ>
~巻頭より

2008年に出版された「旅する力ー深夜特急ノートー」によると、このタイトルは旅から帰って3年後に観た『ミッドナイト・エクスプレス』という実話をもとにした映画に影響を受けたものとのことです。

トルコで刑務所に入れられた主人公の運命と、同時期にトルコを旅した自らの旅を「ミッドナイト・エクスプレスに乗る」という印象的な隠語を使用することで重ね合わせたいます。

 

 

さて、本書で描かれているのは「鉄道大バザール」のセルーとほぼ逆のルートを通って、ユーラシア大陸を横断する旅です。しかも、手段はバスです。
聞くだけでワクワクしませんか?

それでは、旅の始まりです。

 

旅のはじまり

物語はスタート地点であるインドのゴアからはじまります。

 

日本を出発して半年……そこで<私>はすっかり「インド」というバックパッカーの“沼”にハマってしまっています。

いざ、ゴアを発とうと決断をしたものの、旅行案内所の係員には「なぜバスで行くんだ?鉄道の方がベターだ」と言われ、呆れられてしまいます。

なぜバスで、なぜユーラシアを横断するのか

そもそもなぜ彼がこんな大それた旅を始めたのかについて、下記のように語られます。


だが、そのユーラシアを陸路で行こうと決めたのには、僅かながら理由らしきものがないではなかった。日本を離れるにしても、少しずつ、可能なかぎり陸地をつたい、この地球の大きさを知覚するための手がかりのようなものを得たいと思ったのだ。
(中略)
しかし、その陸路をつたうべき乗物としてバス、それも乗り合いバスを選ぶことにしたのは、もう酔狂としか言いようのないものだったと思う。
~本文中より

このあとも<私>の旅は、たびたび「なぜ鉄道を使わないのか」という人々の疑問にさらされることとなりますが、「真剣に酔狂なことをする」ことを突き通そうとします。
その姿勢がこの旅の根底に通ずるテーマとなるのですが、旅の目的としてはすごくいいなーと思ってしまいます。

現代において“旅”というのは、必ずしも必要なものではないと思います。
であるならば、なぜ旅をするのか?

「誰もやろうと思わないことを、やりたいから」

バカらしいようですが、私にはとても素晴らしい理由に思えます。

「とことん突き進んでやろう!」という、このスタンスがこのあとの旅をどんどん魅力的なものにしていきます。

 

香港/熱狂の日々

意気揚々と東京をあとにした<私>でしたが、始点であるデリーにたどり着くころには出発から半年近くが経過していました。

そう、出発地点であるデリーにたどり着くまでに、既に数多くの物語が生まれていたのです。

 

なぜ、こんなことになったのか、この第1巻にはそれが書かれています。

 

はじめデリーまで直行便で行くつもりだった<私>は購入したインド航空のチケットが、ストップ・オーバーで2ケ所経由できることを知ります。

そこでまずは香港に、あくまで通過地点として寄り道することにします。

 

そして、その香港で思いがけず熱狂の渦に巻き込まれることとなるのです。

 

空港での出会いから、とにかく「安い宿」ということで紹介してもらったゴールデン・パレス・ゲストハウスという謎の招待所(内実は連れ込み宿)を拠点とすることになった<私>は、毎日が祭りのような香港の圧倒的な熱気に気分を昂揚させます。

現在、大規模デモが発生するなど、複雑な政治情勢にある香港。

本書に描かれている時代はまだイギリス領でした。50年近くたった今では、景色はすっかり様変わりしているでしょうが、本書に描かれている香港の姿は間違えなく魅力的であります。

そんな香港にどっぷりつかることになった<私>の滞在は1週、また1週と延びていくこととなります。

 

マカオ/カジノに一泡吹かせられるか!?

香港の滞在が続く<私は>、気まぐれでマカオに向かいます。

香港からマカオまでは1時間ほど。

 

いまも昔もマカオといえばカジノだったようで、賭け事をやるつもりのなかった<私>も、興味本位で覗いてみたカジノで、大小(たいすう)というゲームに出会ってしまいます。

大小はサイコロによる丁半博奕の一種である。違うのは賽の数が二個ではなく、三個だということだ。ゲームの基本は、賽の目の大小を当てることにある。三個の賽の目の合計数は最小三、最大十八である。その両端を除き、四から十七までを二分し、十までを小とし、十以上を大として賭けるのだ。
~本文中より

この大小にまんまとはまった<私>は、日本から持った来た2,000ドル弱の資金のうち、200ドルをあっという間にすってしまいます。

面白いのが、彼がただカジノでゲームを楽しむのではなく、必ずカジノ側が儲かるというゲームの仕組みを理解した上で、カジノに一泡吹かせようと奮闘すること。

<私>は熱狂する人々のことを観察し、頭をひねって、必勝法(と思われること)を編み出します。

映画の主人公であれば、鮮やかにそこで札束を手にするのかもしれません。しかし、それは必ずしもうまくいかないのです。

それでもなんとか元金のほとんどを取り返し、翌朝香港へ帰ることを決断します……が、

この旅の意味を思い返し、賢明さなど捨てて、とことん酔狂なことをすることを決めます。

再び、カジノへ向かう<私>、そこでまた一波乱が巻き起こるのです。

 

今回の第1巻では、本来の目的であるデリーからロンドンまで乗り合いのバスで向かう、という旅はまだまだ始まりません。

主に描かれているのは、ちょっとした寄り道のつもりだった香港とマカオの2ケ所です。

前述のとおり、2都市とも恐らく今では全く違った顔になっているのかもしれません。
それでも、熱気あふれるその様子がとても生き生きと描かれています。

そして、その熱狂の渦に自ら飛び込んでいく<私>の姿に、第1巻にしてすっかり引き込まれてしまいました。

 

↓第2巻はこちら

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