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「旅」にまつわるアレコレを30代サラリーマンが綴ります。

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【読書】沢木耕太郎「深夜特急」②/旅立ちのきっかけは突然に

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紀行文学の名作・沢木耕太郎「深夜特急」の第2巻をご紹介します。ようやく香港を発った<私>でしたが、まだまだインドにはたどり着きそうにありません。

 

 

前回ご紹介した第1巻では香港・マカオに立ち寄った<私>。

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今回ご紹介する第2巻では、ようやく香港をあとにしますが、向かったのは旅のスタート地点であるインド……ではなく、バンコクでした。

バンコク/本当に金がないのか??

1週間、また1週間と香港での滞在を延ばしていた<私>ですが、ビザの書き換えに訪れたイミグレーション・オフィスが行列していたことで、バンコクに向かうことを決断します。

こういう期日が決まっていない旅で、些細なことを“きっかけ”として旅の方針を決めていくのって、みなまで計画を立てていくタイプの自分からすると、本当に憧れます。

バンコクに到着した<私>は、また人の親切によって安宿にたどり着くことができます。

しかし、女性を斡旋しようとしてくるボーイになぜ女を買うお金がない?と詰られて、これまで「金がない」ということを盾に親切に甘えていた自らの態度を省みます。

私は旅に出て以来、ことあるごとに「金がない」と言いつづけてきたような気がする。だが、私には少なくとも千数百ドルの現金があった。これから先の長い旅を思えばたいした金ではないが、この国の普通の人々にとっては大金というに値する額であるかもしれない。私は決して「金がない」などと大見得を切れる筋合いの者ではなかったのだ。
~本文中より

好きで旅をしている身であるのに、必死に働く他国の若者を前にして、親切を期待していたことに気がついた<私>は無一文になるまで、金がないことを売り物にするのはやめよう、と決断します。

しかし、この話にはそのあとも入れ替わり別のボーイがやってきては女を勧めてくる、というオチがついています。

 

入り口からつまずいたからか、数日間過ごしたバンコクに<私>はどこか物足りなさを感じてしまいます。

そして、香港のような人々の熱気に包まれ浮き立つような日々を求めて、シンガポールへ向かうことを決めます。

 

ペナン/女とヒモ

バンコクを発った<私>は、普通列車でマレー半島を南下します。

途中、チュムポーンという田舎町を経由し、鈍行列車とタクシーで海沿いのソンクラー、マレーシアのペナンを訪れます。

ペナンで宿泊した華僑の宿は、実は娼館でした。

そこで、娼婦とその“ヒモ”たちと仲良くなった<私>は、つかの間の“青春”を楽しみ、日本人客の取り込みを狙う宿のマネージャーからリクルートされたりもします。

ここでの生活はとてもユニークです。

エリアとしては、以前ご紹介した「鉄道大バザール」でポール・セルーが旅したエリアと近いものがありますが、セルーが皮肉にみちて批評的だったのに対し、<私>の視点は穏やかです。

しばらくペナンに滞在するのもいいかなと、考えはじめた<私>でしたが、香港を発ったときと同じく不意なきっかけで旅立ちを決断することとなります。

 

娼館に別れを告げた<私>は、バターワースから列車に乗って、クアラルンプールに到着します。

しかし、ここにも物足りなさを感じてしまいます。

そして、乗り合いタクシーでマラッカ、そしてシンガポールへ向かうのでした。

 

 

シンガポール/執行猶予の旅

シンガポールにたどり着いた<私>はニュージーランド出身の若者二人組と出会います。

最初はバックパッカーの先輩風を吹かせていた<私>でしたが、彼らが3~4年かけて世界一周するということを聞いて、半年間でロンドンへ到着するという自らの旅の目的を見つめ直します。

私は眼の前の霧が吹き払われたような気分になった。急ぐ必要はないのだ。行きたいところに行き、見たいものを見る。それで日本に帰るのが遅くなろうとも、心を残してまで急ぐよりはどれだけいいかわからない。そうだ、そうなのだ……。
~本文中より

そして、自分が旅に出た理由を振り返ります。

大学卒業後、わずか一日で会社を辞めた<私>は、やがてフリーのライターになりました。

始めはマイペースに仕事を進めていたものの、段々と増えてくる仕事の依頼を前に、“プロ”の書き手になるのを逃れようとした結果、<私>は旅に出たのでした。
この旅は彼の言葉を借りると「執行猶予」なのでした。

 

 

この2巻では、タイ、マレーシア、シンガポールという東南アジアの国々の旅が描かれています。

これらの国々でも<私>は様々な人に出会い、親切を受け、時には文化の違いに戸惑います。

読んでいてそれは、真似しようと思っても真似できないであろう、とても魅力的な旅に思えます。

しかし、香港があまりに魅力的だったため、どこを訪れていても<私>は物足りなさを感じてしまします。

そして、東南アジアの街々に香港の幻影を求めていたことに気がついた<私>は、それを振り払うためカルカッタに向かうことにするのです。

 

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